しいことも嬉しいこともあったはずなのに……悔いのみを抱いて生きてゆく遍路みち
夫・吉村昭氏の死から3年あまり、生き残ったものの悲しみを描く小説集
洗面所のコップの中の2本の歯ブラシを見ると、1本も虫歯のないことを自慢していたことを思い出した。夫の母親が、おまえは口もとがいいね、と言っていたという話をからかいながら口にすると、かれはふざけて口角を少し上げて笑ってみせた。育子はその笑顔を思い出して嗚咽した。――<「遍路みち」より>
著者紹介
津村 節子 (ツムラ セツコ)
1928年6月福井市生れ。39年東京へ転居。41年東京府立第五高女入学、47年ドレスメーカー女学院に入学、51年学習院短大国文科に入学。53年吉村昭と結婚。64年「さい果て」で新潮同人雑誌賞、65年「玩具」で芥川賞、90年「流星雨」で女流文学賞、98年「智恵子飛ぶ」で芸術選奨文部大臣賞を受賞
夫・吉村昭氏の死から3年あまり、生き残ったものの悲しみを描く小説集
洗面所のコップの中の2本の歯ブラシを見ると、1本も虫歯のないことを自慢していたことを思い出した。夫の母親が、おまえは口もとがいいね、と言っていたという話をからかいながら口にすると、かれはふざけて口角を少し上げて笑ってみせた。育子はその笑顔を思い出して嗚咽した。――<「遍路みち」より>
著者紹介
津村 節子 (ツムラ セツコ)
1928年6月福井市生れ。39年東京へ転居。41年東京府立第五高女入学、47年ドレスメーカー女学院に入学、51年学習院短大国文科に入学。53年吉村昭と結婚。64年「さい果て」で新潮同人雑誌賞、65年「玩具」で芥川賞、90年「流星雨」で女流文学賞、98年「智恵子飛ぶ」で芸術選奨文部大臣賞を受賞